「SLAM DUNK」の第1話は物凄くロジカルに作られている
この記事は
「SLAM DUNK」の考察記事です。
「チャゲチャ」をご存知でしょうか
伝説を作ったマンガ「チャゲチャ」をご存知だろうか。
「ボボボーボ・ボーボボ」の作者澤井先生が2008年度42号から49号まで連載されたマンガです。
何が伝説化と言えば、その打ち切りのスピード。
全8回。
当時の事は未だに覚えており、8話で「完結」マークを見た時は、何かの間違いではないかと我が目を疑ったほどでした。
今現在も破られたことの無い最速記録であります。
このマンガを貶めたいというのではなく、「8話でも打ち切られてしまう」ジャンプシステムの怖さですね。
週刊連載の場合、2~3話先のストックがあるとされています。
仮に2話とすると、6話が掲載されたジャンプが店頭に並んでいる時点で、既に最終回が描き終わっている事になります。
ここから更に逆算すると、大体3~4話執筆時点で打ち切りが宣告されていたと推測されます。
ということは、恐ろしいことに初回と第2話のアンケ結果だけで打ち切りが決められたという可能性があるということです。
たった2回分で…。
以前このような記事を書きました。
nuruta.hatenablog.com
早期打ち切りのあるジャンプに於いて、最初から長期展開を見据えた構成をやって、のんびりと構えてしまうと中々に難しい気がするのです。
だから、「仮想最終回」を10話前後で用意するのが、打ち切られない最善手だと考えます。
考えが甘すぎました。
最近でも「オレゴラッソ」など12話で打ち切られてます。
10話も猶予なんてくれないんですよ。
やはり、もっと早い段階。
特に第1話ですね。
僕らが思っている以上に第1話は重要なのでしょう。
アンケで1位を取って当たり前とも言われてますから。
表紙、巻頭カラーに加え、ストーリー漫画ならば50ページ前後ものページ数を使えます。
ここでいかに読者をひきつけるかが肝要なのでしょう。
第1話には漫画のテーマがしっかりと打ち出されている
第1話って「読切」に引きを作れるかが大事になってくると思うのです。
読切漫画同様の起承転結がしっかりとしてあって、それでいて、続きを読みたくさせる引きがある。
その漫画のテーマがしっかりと打ち出されている。
手元にある人気漫画を引っ張り出して検証してみます。
「DRAGON BALL」。
第1話では悟空とブルマが出逢い、ドラゴンボール探しの旅へと出かけます。
翼竜に攫われたブルマを悟空がなんなく助ける事で、悟空の強さを見せており、また、長い旅路が暗示されています。
1話で終わってもおかしくないほど起承転結がしっかりとしてあり、また、ドラゴンボール探しの困難さも同時に示されています。
恐竜が普通に跋扈する世界ですからね。
大冒険の雰囲気が十分に出ています。
「封神演技」。
いきなり最強の申公豹とぶつかるも、一矢報いて主人公としての面目を保ちます。
1話の中で太公望がやらなければならないこと。
その道が困難なこと。
この2つが同時に分かり易く描かれ、起承転結をした素晴らしい導入となっています。
最終ページに入れたナレーション「太公望が封神を終えるのは10数年も先になる」が、壮大な物語を予感させてワクワクを想起してくれます。
人気漫画ってどれも1話が抜群に面白くて、先が気になる作りになってるんです。
しかし、「SLAM DUNK」は毛色が違います。
テーマであるバスケが全面に出て来ないんです。
花道が晴子とバスケットに出会う第1話。
意外にも31ページとページ数が少ない為、大きな進展がありません。
花道が晴子もびっくりの飛距離の大ジャンプを噛まし、バスケットボードに頭を打ちつけて終わりです。
起承転結を志すのであれば、1話でバスケットの見せ場を作っておいても良かったのではないか。
例えば、赤木キャプテンと出会い、バスケで一矢報いるとか。
そう5話で赤木からボールを奪うまでを1話に出来なかったのかなと。
この1話からは、作品がバスケットボール漫画なのかどうかが伝わってこないのです。
論理的に練られた第1話
31巻で井上先生がこう述べています。
連載開始当時はバスケットボールマンガは数えるほどしか無かったし、日本ではまだメジャーとは言い難いスポーツでした。
連載前のネームを作ってる時も編集者から
「バスケットボールはこの世界では1つのタブーとされている。」
と何度か聞かされました。
コケるのを覚悟しろという意味です(たぶん)。
こんな噂もあります。
バスケ方向でアンケが取れそうも無かったら、不良漫画にシフトできるようにしていたという都市伝説。
井上先生的にはバスケ漫画をやるつもりであったが、編集の入り知恵で「導入にバスケを入れない」ことにしたんじゃないかと邪推します。
正直第1話は、バスケ漫画じゃないです。
でも、メッチャ面白いです。
キャラが立ってるんですよ。
好きな子に「バスケ部の小田君が好きなの」と1ページ1コマ目にして振られた花道。
バスケが大嫌いになります。
そんな事知ることも無い晴子が花道に声を掛けます。
「バスケットはお好きですか?」
雷が落ちて一目惚れ。
「大好きです。スポーツマンですから」と堂々宣言する花道。
花道の調子の良さがたったこれだけで表現されています。
そして何と言ってもギャグ調で入り込みやすい。
当時はマイナーだった球技のシーンを読まされるより、「なんか調子の良い不良が女の子目当てでスポーツ始めたぞ」と思わせた方が断然ウケが良いことでしょう。
ラブコメちっくな入り方なので、間口が広いです。
もしも、第1話からバスケットのシーンが展開されていたら、今ほどの人気は出たでしょうか?
ifの話に結論は出せませんが、当時の事情を鑑みても、打ち切られていた可能性は高かったのではないかと思うのです。
まとめ
バスケットマンガだから、バスケのシーンを1話に入れ込まないといけないと正直に描いていたら、多分今ほどの人気にはなっていない。
当時の情勢を知り、間口が狭いからこそ、第1話は間口を広めた。
バスケのシーンを「花道の才能の片鱗」という必要最低限に留めて、ラブコメ調で始めた。
とても考え抜かれた第1話です。
31ページというのは、どちらかと言えばギャグ漫画の新連載に使われそうなページ数です。
ストーリー漫画にしては少ない。
これも計算で、ギャグを強めたラブコメ漫画ちっくに1話のネームを切る為に、このページ数に収めたのかなと。