「惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件」感想 本書のタイトルそのものが読者を欺くレッド・ヘリングだ
この記事は
「惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件」の感想です。
ネタバレあります。
タイトルが格好いいミステリに惹かれちゃう
「鳴鳳荘殺人事件」!!
格好良くないですか?
高山みなみさんというよりかは、松野太紀さんの声で脳内再生したくなります。
そうなんです。
実は僕は「格好いいタイトルのミステリ好き」なのです。
これ間違いなく「金田一少年」の影響だわ…。
読んだあとで意味が分かる系のタイトルより、中二臭いのが大好物です。
「金田一少年」ではそうですね…。
「魔術列車殺人事件」、「妖刀毒蜂殺人事件」、「薔薇十字館殺人事件」あたりが好き。
このような嗜好の人間が、いざアニメイトとかで「鳴鳳荘殺人事件」とドカッと目立つ場所に書かれた書籍を発見してごらんなさいな。
「FGO」のことを何にも知らなくても、ついつい手が出ちゃうのは致し方ないのです。てなわけでございまして、感想です。
「FGO」を知らなくても平気
大人気スマホゲーム「Fate/Grand Order」。
本書は、帯を読む限りは、どうやらゲーム内イベントとして実際に行われたもののノベライズ版という位置づけらしいです。
ゲームシナリオを手掛けた円居挽先生自らが筆を取り、「翻る虚月館の告解 虚月館殺人事件」と同時発売されたもの。
僕が本書の方を手に取ったのは、裏表紙のあらすじを読んで、「軽そう」だと感じたからです。
気分的に重苦しいガチ殺人を扱ったミステリではなくて、日常系寄りのどこかライトな雰囲気のミステリを読みたかったから。
「映画のシナリオの結末を推理して、撮影を続けなければならない」って状況がコミカルさを醸し出してるし、なによりも単純に面白そうじゃないですか。
米澤穂信先生の代表作である「<古典部>シリーズ」第2作「愚者のエンドロール」を思い起こさせてくれるプロットで、正直ワクワクしました。
実際面白かったです。
本格的に本書の感想に入る前に、先ずは「FGO」について簡単に僕の見解を述べておきます。
「知らなくても大丈夫」。
ミステリとして本書を読むうえで、「FGO」の知識はいらないです。
随所にゲームをプレイしてるファン向けだろう小ネタが挟み込まれているため、プレイ済みならばより楽しめるのは間違いなさそうです。
けれど、本書の面白さの本質とは無関係であるし、物語の核心に関わってくるものでもありません。
取り敢えず、歴史上の人物達(どうやらホームズなど架空の人物も含まれるらしい)が「サーヴァント(英霊)」として現世に召喚され、主人公・藤丸立香(本書では女性かな?)と共に狂った歴史を元に戻すべく時間遡行(「霊子転移(レイシフト)」)して修正していっている…というふわっとした感じさえ掴めていれば大丈夫かと思います。
あ。これ鵜呑みにしないでくださいね。
最初に書いたように僕も未プレイですので、これはあくまでも本書を読んだ上での僕の見解に過ぎません。
実際のゲームの設定とは異なるかと思いますが、それでもこんな解釈でも本書を楽しむには、不自由しませんでした。
ではでは、ちゃんと感想を書きますね。
ネタバレ注意です。
本書のタイトルそのものが読者を欺くレッド・ヘリングだ
僕は最初に「読んだあとで意味が分かる系のタイトルより、中二臭いのが大好物です。」と書きました。
その上で、本書は中二臭いタイトルであるかのように紹介したわけです。
僕の琴線に触れるタイトルであることは間違いないのですけれど、しかし、「読んだあとで意味が分かる系のタイトル」に近いニュアンスを含んだ絶妙なタイトルでもあったと思ったのです。
本編では、紫式部が映画のシナリオを時間の無い中依頼され、彼女の頭の中だけにシナリオが出来上がった状態での撮影開始という非常にドタバタとしたスケジュールで進行します。
台本という形で紙に書いている時間が無かったからこそ、紫式部が撮影中に倒れてしまうというアクシデントによって「誰も映画の結末を知らない中で映画を完成させなければならない」というシチュエーションが出来たわけです。
何が手掛かりで、何が無関係なのか。
映画のキャストであるサーヴァント達は、知恵を絞って結末を推理していきます。
その推理はどこれもこれも良くできていて、「些細なことを伏線に仕立てる」ことで見事に成立させていきます。
殺人事件の犯人は誰なのかという推理を披露するのですよ。
鳴鳳荘殺人事件。
果たして真犯人は一体!?
ごくごく自然に映画が殺人事件を扱ったミステリとして進行していくのですけれど、これが最大の仕掛けといっても過言じゃないんじゃないかな。
本書のタイトルそのものが読者を欺くレッド・ヘリングになっているんですよ!!
「鳴鳳荘殺人事件」というタイトル。
鳴鳳荘を舞台にした劇中劇で、撮影中に1人のキャストが倒れ、1人のキャストが消失(成仏?)してしまいます。
結末は分からないけれど、これら不測の事態を映画のシナリオに組み込まざるを得なくなり、残ったサーヴァント達は自然と「殺人事件劇」を展開させていくのです。
僕だって、思考が完全にそっち方面に行っちゃいました。
紫式部が思い描いた殺人事件の結末を推理しちゃうのですが…。
ああ、やられましたよ。
作者が紫式部だってことをもっとしっかりと念頭に置くべきでしたね。
映画の真意が全然別のところにあるとは疑いもしませんでした。
タイトルから「殺人事件劇の犯人あて」だと思い込まされちゃったのかもしれません。
意外なテーマの暴露。
ここで終わりなのかと思いきや、「紫式部が込めたかったテーマに則りつつ、全ての推理を意味のあるものとする結末」が用意されていたのは、ミステリ的にはGoodでした。
そんなところをそういう風に使うのか~って部分が真相編でごまんと出てきて、綺麗に収束するラストには、大きな満足感がありました。
終わりに
推理しながら読むタイプのミステリではなくて、頭を空っぽにして楽しむタイプのミステリかな。
難解なトリックとか重厚なテーマとかはありません。
何も考えずに、しかし、細部まで記憶して読み進めて、至る所に仕掛けられた伏線がいっきに回収されるラストを目一杯楽しんでくださいませ。