Mangaism

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「最後の西遊記」がジャンプ次代のエースになってほしい

この記事は

「最後の西遊記」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

「獄丁ヒグマ」が終わっちゃいそうで辛い。
良作だと思うんですけれどね。
現実は厳しい。
なんとか生き残ってほしいところ。

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©野々上大二郎
もう1本、僕が最近の新連載で推しているのが「最後の西遊記」なんです。
今回はこの漫画について少しばかり感想を。

暗かった第1話に確かに見た「美点」

1ページ目から暗かったですよね。
どこか終末のような暗さを漂わせた始まり方で、1話全体を通してもシリアスで重かった。

手足の無い血の繋がらない妹。
母を亡くした少年が縋る夢は、実の父の理不尽な命令によって奪われる。
淡々と語られるは、少年の置かれたシチュエーションに対する怒りとやり場のない感情。
そして、「妹」コハルの悲劇。

暗いお話は僕の趣味では無いので、あんまり印象が良くありませんでした。

ただ、龍之介には物凄く好感を抱きました。
彼は、心根が非常に優しい。

コハルに対する感情の動きが「理屈」で納得できちゃうんですよね。
理不尽を押し付けられたことからくるコハルへの怒りの転嫁は、小学生だということを考慮すればかなり「大人しい」部類に入りますよね。
だってまだ小学3年生ですよ。

もっともっと駄々をこねて、野球をやりたいという気持ちを出したって不思議じゃありません。
むしろそれが一般的ですら思うのです。
それなのに、反発しつつもしっかりとコハルの面倒を見て、3か月も過ごした。

こういったある種「普通の小学生らしからぬ態度」を取れたのは、彼が誰よりも優しかったから。
優しい人っていうのは、人の痛みを分かってあげられる人だと思います。

母を亡くした辛さという実体験があったとはいえ、両親を喪っているコハルの気持ちを理解してあげられるのも優しさ。
自分の態度や言葉がコハルを傷つけていると自覚し、それに対して自己嫌悪に陥るのも優しさ。
コハルの怖さを知って尚、自分のことよりもコハルを案じてあげられるのは、間違いなく彼の美点です。

ほら、よく言うじゃない。
「君は優しいね」って。
無個性を取り繕う時によく使われる言葉で、僕やありゃりゃぎ君が言われなれている言葉ですね。
もし、僕が龍之介少年を評して、彼に言葉を掛けるとしたら「君は優しいね」にしますね。
決して「無個性を取り繕う」という場当たり的な使い方はせずに、本心で使いますね。

どこまでも彼の優しさが描かれた第1話(と第2話)でありました。

優しさが彼を強くする

物語はどんどんと進みます。
1話から丹念に見せてきた龍之介の優しさが物語を良いほうに加速してくれてるんですよ。

あらかじめ強調しておきたいのは、龍之介は普通の少年であるということ。
特別な能力を持っているわけでもないし、血統に優れているわけでもない。
勿論尻尾も生えてないし、月を見ても大猿にはならない。
例えコハルが殺されても千年に一人の伝説の戦士に変身もしません。

今後「実は龍之介は…」とでもならない限りは、彼はごくごく普通の小学3年生男子と捉えて問題ないはずです。

そんな少年が、果敢にも化け物やそれを束ねる異能者に挑んでいくのです。

出来ませんよね、普通は。

いくら手元に如意棒があっても、そんな無謀なことはできません。

けれど、彼は出来ちゃっています。
触れただけで吹き飛んでしまうくらい柔な体で、棒片手に飛び込んでいくのは勇気があるからだけじゃありませんよね。
「必ず護ってやる」という誓いが決して口先だけではないからです。
妹を守り抜くんだという彼の優しさが成しえた行動なのです。

とはいえ、それだけで化け物と渡り合えるというのはご都合が過ぎるので、神に近しいコハルが、龍之介を信頼しているからというプラス補正が加わっています。
彼が本気でコハルのことを考えているということをコハル自身が認めて、龍之介を信頼した。
確かな信頼関係をしっかりと見せていたからこその展開であり、龍之介の優しさが届いたなによりの証左でもあって。

如意棒の真の力を引き出せた本当のところは、彼ら自身にも分かってないし、今後作中で語られるかもですが、少なくとも僕には龍之介の優しさが起こした必然の奇跡に思えました。


単純に絵が物凄く見やすくて、バトル描写も迫力があるからというのもありますが。
なによりも1話から龍之介の優しさを前面に出していた意図が見えてきたのが「面白い」と掌返しした最大の理由かもしれません。

まとめ

王道ではあるものの「ジャンプ」では中々珍しい類の作品かもしれません。
能力などの作品独自の設定を前面に出すのではなくて、キャラクターの内面描写を前面に活かした作劇のバトル漫画というのは。
優しさが能力の向上に繋がっていて、絆が深まるほど強くなるって新鮮です。

それを可能とする作者さんの確かな描写力もあって、非常に面白い作品になっています。
このまま突っ走って、まずは最初の関門である打ち切りをクリアしてもらいたいですね。