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「未来のミライちゃん」は細田作品史上最も"丸い"物語だった

この記事は

「未来のミライちゃん」感想です。
ネタバレあります。

見て来た!!

細田守監督最新作「未来のミライちゃん」を見てきました。
面白かったのだけれど、監督の歴代作品と比べるととても大人しい印象を受けました。
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感想です。

とにかく柔らかく、優しい物語

珍しくもどこか守りに入ったような作風でした。
原作のある「時をかける少女」を除けば、「サマーウォーズ」から「バケモノの子」まで一貫したテーマがありました。
どれも家族と愛について取り上げていて、今回もその線上にある作品。
もう1つ共通しているのは、「重要キャラクターの死」が描かれている点。
ただ死を用意するのでは無くて、主人公の転機になってるんですよね。

「サマーウォーズ」では栄ばあちゃんの死がバラバラだった家族を1つに纏めた。
死とは縁遠そうな活力にあふれたおばあちゃんだったので、彼女の死はインパクトがありました。
物語をいっきに引締めていたし、家族をけん引するパワーを持っていいたので、彼女の死でひとつになる展開は非常に納得出来る説得力がありました。

「おおかみこどもの雨と雪」。
慎ましくも幸せに暮らしていた彼の唐突な死。
雨の中町中で息絶え、狼の姿に戻った彼の遺体は、ゴミ収集車に回収されるという衝撃的なシーン。
その「最期」の描写には息を飲みました。
彼を人として見ていたので、あまりにも悲しかったですね。
花の覚悟を決めた一瞬でもあり、僕にとっても心に深く突き刺さる一幕でした。

死とはまた違うのでしょうけれど、「バケモノの子」の熊徹も辛いものがありましたね。
やかましくて口うるさく、そして優しいキャラクターでしたので、九太の為とはいえあの選択で正しかったのか、他に手は無かったのかと考えてしまいます。

僕は基本的にキャラクターを死なせる事に否定的な意見を持っています。
特にそれで感動させようという意図があると嫌悪感すら抱きます。
(人は他人を感動させる為に死ぬんじゃないんだよ。ただただ悲しいだけなんだよ)
個人的な好き嫌いは抜きにして、前3作を見ると、どの作品の死も印象深く僕の心に刻まれているのです。
何年経ってもキャラクターの死を起点にして、作品の事を思い出せます。
記憶に残るという意味では、キャラの死も必要なこともあるのかもしれません。


では、「未来のミライちゃん」はどうだったか。
なんとなくですが、これまで以上に広範囲の人に安心して見て貰える映画ではあると感じました。
とにかく柔らかく、優しい視線で作られた作品です。

まだ幼い4歳児・くんちゃんを主人公に据えて、徹底的に彼の目線に立って描かれています。
お兄ちゃんやお姉ちゃんなら、くんちゃんの気持ちをきっと理解出来る筈です。
僕だってそうです。
妹がいるので、くんちゃんの嫉妬は痛い程分かります。
皆下の子の方が可愛いんだ。自分なんかどうでもいいんだ。
自然な感情です。
それをそうじゃないんだよと優しく語りかける物語。

いきなり現れた赤ん坊は敵に見えますよね。
大好きなお父さんもお母さんも、祖父母すら取っていっちゃうんですから。
先ずはその気持ちが何なのかを知って、当たり前の感情であると教わり、母からの愛情を確かめて、「初めて」を恐れない勇気を貰う。
1つずつステップを踏んだ後に、赤ん坊を「自分の妹」であると受け入れる。

上の子ならば誰もが通る道をフィクションたっぷりに、分かり易く活き活きと綴っています。
現在進行形でくんちゃんの立場を共にするお子さんから子育てを経験した親御さん、かつてくんちゃんだった人まで、誰もが温かい気持ちで見れる映画だと思います。

面白かったと思います。
でも、心には刺さらなかったんです。
多分時間が経てば忘れちゃう物語。
刺激が無かったんですよね。

刺激の無い"丸い"物語

端的に言えば、「ここを見て欲しい」と監督が訴えるポイントが分からなかったのです。
そういう見せ場は大抵クライマックスに収束されています。

とある1点に向かって物語が束ねられていき、感情が渦巻いて上昇していく。
クライマックス=最高潮というのは、文字通り物語や感情が最も高まった状態です。

今作で言えば、くんちゃんがミライちゃんを妹と認めた東京駅地下でのカットがそうなのでしょう。
時の冒険を経てくんちゃんが辿り着いた成長の証ですからね。

キャラクターの感情は盛り上がっていました。
けど、僕の感情はそこまで盛り上がりませんでした。
くんちゃんが「お兄ちゃん」発言した瞬間に感動こそしましたけれど、高揚感は無かったんです。
これは、物語の方に盛り上がりが足りなかったからかなと見ています。

1つ1つの冒険が割と淡々と進むんですよね。
くんちゃんにとっても、刺激的な展開が無くて、どこまでも穏やかで優しい空気が流れている。
東京駅に入ると一転して、恐怖感や緊張感がありましたが、やや物足りなさがありました。


要するに、前3作のような衝撃的なシーンが無かったんですよね。
誰かが死んじゃうようなインパクトが無かったので、印象に残り難い作品に思えました。

終わりに

思ってたほどミライちゃんの登場シーンが少なかった。
もっとくんちゃんとくっついて色々な時間を旅するのかと思ってた。

まぁ、でも、あれですね。
ミライちゃんが可愛かったですね。
未来から来た高校生(?)バージョンも良かったですが、赤ん坊時がヤバかった。
「あ~」って言う度に、笑顔になってました。

仕方ないね。
この春に1歳になったばかりの甥っ子(天使)が可愛くて仕方ないんだもの。
「あ~」とか「ばぁ」とか言って懐いてくるんですよ。
満面の笑顔を咲かせて、ちっちゃな手を一生懸命伸ばして抱いてアピールされてごらんなさいよ。
心鷲掴みにされるから。
赤ん坊ミライちゃんが甥っ子(大天使)と被ってしまい、どうしても笑顔を抑えきれませんでした。


くんちゃんもミライちゃんも、しっかりと子供・赤ん坊として画面上で生きていたのは、細田監督の手腕なのでしょうね。
心の機微も含めて、非常にリアルな子供達でした。