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「いなり、こんこん、恋いろは」 25話に濃縮された伏線を見事に掬い上げた極上の終わり方

この記事は

「いなり、こんこん、恋いろは」第10巻の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

万感の最終巻でした。
ちょっぴり切ないけれど、最高のハッピーエンドと言えるかな。

いなり、こんこん、恋いろは。 (10) (カドカワコミックス・エース)

いなり、こんこん、恋いろは。 (10) (カドカワコミックス・エース)

簡単に感想を。

第25話と最終巻

5巻のあとがきでした。
折り返し地点まで来たと書かれていて、実際に10巻で完結。
ピッタリと10巻で収まったのは偶然なのかもしれませんけれども、1つ確かなのはこのラストまでのプロットは、少なくとも5巻執筆時には出来上がっていただろうという事ですね。

だからなのでしょうね。
6巻から最後までの流れが、完璧に終わりを意識した流れ。
そもそもが、5巻が1つのクライマックスでありました。

大きな事件があって、いなりがうかに力を返すエピソードが描かれていた5巻。
ここで一度いなりはうかと「お別れ」してるんですよね。
コイバナを無視すれば、「いなり」という作品にとっての1つの決着がこの巻で訪れていたと思います。
作品として終われなかったのは、そのコイバナが未完だったから。

という事で、25話が面白いんですよ。
5巻の締めくくりとして収録されている第25話。
前半と後半の橋渡しになっていて、しかも最終章への伏線(というと大袈裟かな)がてんこ盛り。
後半のコイバナに繋がる全てがぎゅぎゅっと詰め込まれているんです。

何度も書いてきましたが、今作を彩るコイバナは3本ありました。
いなりと丹波橋の恋。
うかと燈日の恋。
墨染さんと京子の恋。

一般的な男女の片思い。
神と人の赦されざる恋愛。
女の子を好きになってしまった女の子の切ない恋。

趣を変えた3つの恋を柱としていました。

それぞれ、どういう「答え」が出されるのか。
その重要な部分が25話に描かれていました。

先ずは墨染さん。
色々あって、京子と友達としての絆を深めて来て分かった事。
同性だから、友達以上の関係を望んではダメなんではないかと言う気持ち。
直前の修学旅行で、同性だから今の関係があると認識していて、彼女の想いは成就する事は無さそうだという事が窺えて来ます。

うかと燈日の恋は、本当に切なかったです。
結果だけ見れば、どう見てもこれ以上望めないハッピーエンド。
でも、両親の気持ちを考えてしまうと切なくなっちゃうんですよ。
娘を失うか、息子を失うか。
考えたくも無い2択を迫られてしまって。
結局子供達…特に息子の幸せを最優先して、自分達の気持ちを押し殺す。
凄い決断だと思いますよ。
僕は未だに親ではないので、親の気持ちを100%理解出来るとは言いませんけれど、作中の描写を読むだけでも辛さが伝わってきましたもの。

そんな親の気持ちと、燈日の決断の切欠となったであろう出来事もこの25話にありました。
48話での燈日の考えを知った後に、改めて25話を読むと非常に感慨深い。

勉強以外に夢中になれる物を見つけて、そちらに集中してしまったら、今までの全てが無かった事になる。

そう思っていた燈日の気持ちを軽くした父の言葉。

勉強以外に夢中になれるもん見つけたんやったら、我慢せんでいいんやで。

こう言った後に、自分がやりたい事を選べば良いと背中を押す。
父の、母の、偽らざる想いなんでしょうね。

だから両親は燈日の決断に異を唱えなかった。
陰で泣いて、本人の前で笑顔で送りだした。
燈日もまた、そんな両親だからこそ、うかと一緒になる唯一の道を選択出来た。
クライマックスに繋がる重要な会話が25話にあり、それを綺麗に拾った最終章がありました。

最後は、いなりと丹波橋ですね。
丹波橋もいなりを好きなんではないかと言うのが25話近辺で既に見えて来ていて、読者も2人の恋が上手くいくのではと確信を深めていた時期。
だから、2人の恋の行方ではなく、恋路に立ち塞がるであろう"試練"についての暗示が25話にあった気がします。

丹波橋君がいなりに「僕も力になるから!」と宣言してます。

最後まで読んだ今だからこそこういう考えになっちゃうんですが、この台詞がまさに最後の展開への前振りだったのかなと。

いなりが危機に陥って、丹波橋が助けに向かうという。
いなりの力になる為に奔走する前振り。

うかが人間になりたがっているというのも、そういう展開を予想させる一因になってたりしますからね。
力を返したとはいえ、いなりとうかの関係が今後(6巻以降)も続く事は予想に容易く、うかが神を捨てる事は、いなりにとって良くない兆候であるとも予想出来ますし。
勿論結果論…これまた今だからこそ言えるのですけれど、「最終回までの流れが5巻執筆時点で決まっていた」のならば、これらは全て伏線と見做しても問題無いと思うのですよ。

最後はやや強引な解釈になってるかもしれませんけれど、25話。
前半の最後のお話に、後半のコイバナに繋がる全てが濃縮されていた気が致します。

んで、このように解釈すると、非常に綺麗な畳み方をされていたんだなと改めて気づきます。
特に伏見兄妹の恋が複雑に絡まり合って、兄妹共に想い人と結ばれるまでの過程が綺麗に纏まっていたんだなと。

10巻は通常よりもボリュームがありました。
たっぷりとページ数を使って描かれた大クライマックス。
5巻25話から読み取れる前振りを全て掬い上げて、綺麗に収まっている。
明るく爽やかで、それでいて、切なさも感じられる。
「いなり」らしいテイストに溢れた素晴らしい終わり方でありました。

終わりに

5巻巻末には、第零話が収録されています。
まだ幼いいなりが初めてうかを視認して、「かみさま!!いた〜〜〜っっ」と無邪気にはしゃぐ。

10巻巻末は最終回から数年後のお話。
紅司の「紅」といなりの「り」を取って「紅里(あかり)」なんでしょうね。
将来結ばれたであろう2人の小さな小さな娘。

そんな紅里が見た男神。
燈日なのでしょうか。
それともうかと燈日の息子でしょうか。
ふっと姿を現してはこつ然と消えた彼を見て、紅里は無邪気に喜びます。

「かみさま!!いた〜〜〜っっ」って。

ある日の母と同じリアクションを取る女の子のお話で締め括られている。
5巻と対を成すこんなところからも、「最終回までの流れが5巻執筆時点で決まっていた」のが窺えて来て、綺麗に畳まれたことを強く実感できます。

読んでいて、幸せな気分に浸れる漫画だったので、終わってしまったのは残念ですが。
終わり方が素晴らし過ぎて、言う事無いって感じです。
「いなり」、最高!!