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「るろうに剣心 伝説の最期編」 感想:3人の剣客の侍道に着目してみる

この記事は

「るろうに剣心 伝説の最期編」の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

「るろうに剣心 伝説の最期編」を鑑賞して参りました。
やはり!!の出来。
ほぼ完全オリジナルと言って差し支えないシナリオでしたが、まさしく「剣心」の"肝"を正確に射抜いた会心の傑作でした。
今回の感想は主に剣心、志々雄、蒼紫と3人の剣客がそれぞれの仲間と「どのような関係を築いていたか」に着目してみました。

十本刀について触れておかねばなるまい

宇水の雑魚っぷりにクソ笑ったwww
台詞無し、見せ場無し。
原作通りに斎藤との戦いで散ったものの、僅か一太刀。
牙突の一撃を喰らって、本当にあっけなく。モブ雑魚と同様の瞬殺でした。
いや〜、まあ、仕方ないっすよ。
ここら辺を重くしちゃうと尺に収まらないですもの。

まだ宇水はこれでもましな方で、他の有象無象(と敢えて表現しますが)の十本刀なんて戦うシーンすら無し(笑
若しかしたら背景でちまちまと戦っていたのかもですが、カメラのピントが当たる事は無く。
決着後警官にしょっぴかれているかなり残念な姿だけが映されているというねwww

本当に至極残念ではありましたが、唯一割かししっかりとしたバトル描写と信念が描かれていたのが安慈でした。
では、モブと同等の扱いだった(宗次郎、方治以外の)十本刀から何故安慈だけにこのような活躍の場が与えられたのでしょうか?
正確な答えは分かりませんけれど、僕の解釈はこうです。

「十本刀が志々雄に従う理由を説明させる為」。

側近である宗次郎、由美らではなく、「(この映画内での立ち位置的に)志々雄に然程近く無い味方」に語らせる事に意味があったと解釈しています。
つまりは、志々雄に近くない仲間がどういう考えで志々雄と共に行動しているのかを観客に理解させる為ですね。

安慈曰く「目的を共にしているから、行動を共にしているだけ」という。
皆が皆明治新政府に浅からぬ因縁・復讐心を持ち、故に新政府転覆を目的とする志々雄に従っていると。
決して志々雄を守る為…という仲間ばかりではないという事ですね。
ここは僕の論を語る上では重要なので、先にを示しておきます。

大事な事なので2度言う

志々雄が死にゆく由美に語りかけた名言。
「先に地獄で待ってろ」。
原作にもあり、この後編でもしっかりとあったこの台詞を、何故か剣心にも言わせてましたよね。
志々雄一派を騙す為に仕組んだ嘘の処刑執行の際に方治に向かって剣心が言っていました。

「志々雄に伝えろ。先に地獄で待ってると」。

細部は違うでしょうが、こんな感じ。
この台詞の意味合いは非常に面白いです。
同じ台詞なのに、発している人間の心境がまるで逆なんですから。

この他にも2度繰り返されていた台詞がありました。
間違いなく大事な事なので敢えて繰り返したのでしょう。
これらの台詞を元に先ずは志々雄と剣心、それぞれの仲間との関係から見えるコトを考えます。

志々雄の死に対する考え方〜志々雄の侍道〜

志々雄の方は文字通りで、「近いうちに自分自身も死ぬことを理解した上での発言」なんですよね。
剣心らに追い詰められ、タイムリミットも近づく中、いよいよ死を意識した上での発言。
ただ大事なのは、決して後ろ向きな発言ではないという事です。
死の間際に剣心に叫んでましたが、志々雄にとってこの戦いで死ぬことは負ける事に等しくないんですよね。
彼の中では「時代に選ばれなかった」だけであって、「剣心に敗れたから死んだ」訳では無いと。
この志々雄のスタンスは、剣心の「不殺」を守らせる為にも必要な考え方であり、二重の意味を持っています。
とはいえ、「死」を意識していた事は確かと思われます。
ここから言える事は「志々雄は自らの死を何とも思っていない」ことですね。
死ぬことを恐れてもいないんです。

かといって、すぐに死にたいとも思っていない。
それは、彼が仲間を持っていた事から考えられます。

作中で同じく2度繰り返されていた台詞がありました。
志々雄の発汗機能に関してのそれです。
彼は発汗機能の大半が失われ、生きているのが不思議とまで医者に言わせるほどの高温を常に宿していると。
故に戦いや運動などによって体温を上げる事は死に直結する。
そのタイムリミットは15分であるという事まで語られております。

タイムリミットこそ志々雄はこの時点まで知らなかった可能性がありますが、「長く戦える体では無い」事は百も承知だった筈です。
ならば志々雄は、政府転覆という目的を達する為に仲間を集めていたという事になります。
志々雄の実力であれば、たった1人でも政府に挑めたでしょう。
しかしそれをしなかったのは、目的を達する前に身体が持たずに死んでしまうと悟っていたからではないか。
そんな訳なので、死んでまで復讐を行おうとは思っていなかったとも言えます。
目標の達成…政府転覆を見届ける事が第一義であり、その過程での死は決して望んでいなかったのでしょう。
安慈が言うように、志々雄の思惑通りの仲間が集まった点からも、この考えが大きく外していないのではないかと思わせてくれました。
中には由美のように心から志々雄の命を大切に想ってくれる仲間も居て、彼女の意志も大事にしていたでしょうしね。
以上より志々雄と仲間の関係から「志々雄は死に執着は無いが、死んでも良いというやけっぱちな精神は持ち合わせていない」ことが窺えます。

剣心の死に対する考え方〜剣心の侍道〜

剣心の方はというと、あの時「自分が処刑される事が無い」事を承知の上でした。
そういう作戦なのですから当然です。
故に、「地獄て待ってろ」というのは、本心ではありえない。
少なくとも自分が死ぬとは考えていなかったわけです。

それもそのはずで、やはり2度繰り返された台詞が決定づけてくれます。
比古が剣心に言います。
「命を大事にしろ」と。
恵が剣心に言います。
「命を大事にしろ」と。

念を押された「自分の命をも守れ」という約束を違えない為に。
比古と会う前までは「死んでも構わない」という考えでいた剣心も、師匠との修行を経て考え方を変えました。
ここまでのドラマを見ていれば、剣心が自分の死を受け入れていない事は想像に難くありません。

そんな剣心の仲間達は、揃いも揃って剣心を死なせない様にしていました。
剣心が仲間達の命を守ろうとするように、仲間達も剣心の命を守ろうとしていたと。

志々雄とのラストバトルもそうでしたよね。
斎藤は純粋に志々雄を倒す為かな。
蒼紫はよくあるライバルキャラのツンデレ動機である「剣心を倒すのは俺だけなんだからね」でしたw
左之はまんま剣心を助ける為。
前者2人は剣心の仲間という訳ではありませんが、結果的に剣心を守る為の戦いになっていました。
知ってか知らずか志々雄の15分というリミットを使い切ろうという勢いで次から次へと仕掛ける様は剣心の為にしか見えませんでした。

剣心自身死んでも良いと思わなくなってるし、周りの仲間も剣心の命を大事にしている。
今の剣心はそんな仲間の気持ちを考えられない訳では無いでしょうしね。
ラストカットの薫への「告白」からそう受け取りました。
剣心は仲間と非常にいい関係を築いていて、比古のお陰で自分の命を粗末に扱わない様な考えを身に付けました。

「生きて刀を振るい続け、自分や仲間を守り抜く」

原作ラストに到達した心境をしっかりとこの映画でも描かれておりました。

蒼紫の死に対する考え方〜蒼紫の侍道〜

最後に蒼紫。
原作から最も改変を受けた人物で、本当に狂人でしたね。
前編での行動がもう…ね。

剣心を追う理由が全く以て理解不能の逆恨みですら無かったり。
道端でたまたま出会った左之に「抜刀斎は何処だ」と訊ね、ぼっこぼこにしたり。
(偶然左之が剣心の知り合いだったから話が繋がったものの、そうじゃなかったらただの通り魔でしょw)

ただ、この狂人っぷりが「人斬り抜刀斎のifの姿」にはなっていました。
まさに修羅に堕ちたという表現がピッタリ。
仲間である筈の京都御庭番衆との関わり方が、蒼紫の修羅っぷりをよく表していました。

翁と戦ったまでは原作通りですが、原作ではそれ以上の凶行は仲間に対してしていません。
故に剣心との再戦後は、すんなりと御庭番の元へ帰れたんですけれど、この映画ではかなり変えてありましたね。
翁の命を奪い、更には操にまで手をあげる始末。

完全に仲間を捨て、仲間からも捨てられ、しかし、生かされる。
蒼紫としては敢えて翁を殺す事で、仲間達から殺されたがっていたのかもしれません。
堕ちた自分を止めて欲しいという意味で。
自分の命を捨ててでも剣心を屠ろうとするスタンスや仲間への接し方から、剣心もこうなる可能性があったのかなと思わされました。

志々雄とは違って、死ぬ為の道を進んでいた狂人として描かれていたと解しています。

まとめ

剣心は、志々雄のようにも蒼紫のようにも成り得た。
2つのifの道を描く事で、剣心が違う道を進んでいるという事を明確にし、より差別化を図っていたのかもしれません。
そう考えると、不要だと思っていた蒼紫の扱いも、これはこれでアリだったのかもと考え方が買えられるようになりました。

兎も角剣心も志々雄も原作のキャラクター性を一切損なうことなく、しっかりとオリジナルの脚本になっていた。
実写化でも、こうやって原作をぶれずに描いてくれると、気持ちよく鑑賞できますね。

前編の感想でも触れましたが、+で役者陣の熱演が本当に本当に良かったですね。
特筆すべきは藤原さん。
志々雄のピカレスクをこれでもかと再現されていて、最高のキャスティングだったんじゃないかな。
凄かった。

前編感想でも触れたカタルシスはしっかりとあり、最終決戦での盛り上がりは必見です。
ちょっと長いかなと感じた修行も吹っ飛ぶ、実写3部作の締めにも相応しい最高の締めでした。
いや〜、面白かったです。



ところで…。
あれは天翔龍閃じゃねぇぇぇwww
漫画っぽい表現を削ぎ落している実写版ですが、それでも9つの斬撃の抜刀術は再現しても良かった気がします。
あとは、まあ、斎藤と比古が1つ屋根の下で語り合うシーンとかも見たかったかもですw