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地獄の傀儡師・高遠遙一の真実 「金田一少年の事件簿」考察

この記事は

「金田一少年の事件簿」の考察記事です。
「魔術列車殺人事件」に関する重大なネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

高遠遙一。
「金田一少年の事件簿」に登場する稀代の犯罪者です。
主人公であるハジメが、唯一自身のプライドの為に捕まえる事を誓った最大の宿敵ですね。
今回は彼について書いていきます。
ミステリ作品のネタバレが満載な為、ネタバレにはご留意ください。

高遠とは?

高遠は犯罪者であり、悪人である。
彼は、通常の真犯人達とは一線を画する存在です。

ミステリ、特に「金田一少年」に於いて、犯罪者というモノは「殺人を犯すのに、読者が納得してしまう動機」を持っており、本作では徹底してここは統一されています。
真犯人のドラマは、トリックなどと同等に重きを置かれて、慎重に丁寧に作られている訳です。
だから、ただの「パズル漫画」に終わらないドラマ性を作品に付与できているのですが…。

高遠は、そんな犯人達とは異なります。
とはいえ、彼が直接手を下した「魔術列車殺人事件」での犯行動機こそ、このルールに則っておりました。
やはり「殺人を犯しても仕方ないかな」と同情を抱ける程の動機がありました。
が、彼が歪んで行ったのはこの後です。
正確には「魔術列車」最後の「殺人」。左近寺殺しの時でしょうか。
ここから彼の悪への道が本格的に始まりました…。

殺人教唆。

「犯罪芸術家」を称し、殺人動機を持つ人間に自らが考えた殺人計画を与える。
自らの計画に高いプライドを持っている為、計画を与えた人間がミスを犯したりするとその者を処刑する等、卑劣極まりない事を平気でするようになります。

現在彼の(殺人教唆として)関わった殺人事件は5件。
8人もの人間を殺め、未遂が3人。
彼の授けた計画で殺された人数が15人にも上っているようです。
(この数字はwikipediaより)

では、何故高遠は「犯罪コーディネーター」を始めるようになったのでしょう?

冥王星と高遠の類似性から考える

その前に「探偵学園Q」のお話を。
こちらにも「犯罪コーディネーター」が登場します。
とはいえ、高遠のように個人では無く組織としてですが。
「冥王星」。

やはりこちらも殺人を持ちかけ、計画を授け、失敗した際には組織の存在が明るみに出ない様予めかけておいた「催眠術」で、証人(殺人実行犯)の口を封じようとします。

作者が同じという事もあり、明らかに高遠をモデルとして考えられた組織なんでしょうね。
細部に至るまで、悉く似ています。
なので、高遠が犯罪コーディネーターを始める切欠もまた「冥王星」が興った理由を掴む事で推察出来そうです。

「冥王星」の首領であるキング・ハデス。
そもそもが彼が興した組織であるから、ハデスの事を調べれば良い訳ですね。

高遠のキャラ的には、幹部であるケルベロスの方が近いのですけれど、ケルベロスは「冥王星」に入った動機等々が全く不明であるので、今回は(次回なんて無いけれど)ハデスに注目してみます。

ハデスが組織を作った動機。
一言でいうと「信頼していた相手に裏切られた絶望感」からでした。
彼は、2人の人物の「裏切り」に合い、悪の道へと走った訳です。
とはいえ、それでいきなり組織の事を思いつく訳も無く。

「組織を作った」直接の理由は、ハデスの実母が同じく犯罪コーディネーターをやっていたからでしょう。
裏切りにあう前は、忌み嫌っていた亡き母のやり方を発展させ、組織化した訳です。
逃げ切れない親の影響力とでもいうのでしょうか。

恐らくですが、彼の母がそんな犯罪者で無かったら、彼もまた「冥王星」等興す事は無かったでしょう。
そういう発想すらしなかったんではないかな。
ただ単に「裏切られた絶望」に打ちひしがれていただけかもしれませんし、犯罪の道に走ったとしても軽微なモノで済んだかもしれない。
ifを考えればキリがありませんが、それでもそんな「もしもの」中に「犯罪コーディネーター」を志すという道は無かったと思うのですね。

そう言った意味でも、母の影響力というのは計り知れないのではと考えました。

高遠の真実

前述の通り、これはそのまま高遠にも当て嵌まるのだと思うのです。
高遠の犯した殺人の動機は、やはり母が絡んでおりました。
有名なマジシャンだった母・近宮玲子を母の弟子たちに殺された事が殺人の動機であり、実は犯罪コーディネーターの道に走った動機も彼の母にあるのではないでしょうか。

細かく見ていきます。
先ずは、彼が拘る芸術性。
自身が考案した犯罪を芸術とする考え方。
これもまた、近宮の影響力ですね。

先程「魔術列車」での動機を「母が殺されたから」と書きましたが、これは少し語弊があります。
勿論母を殺された事への復讐心というのも多少はあったかと思います。
が、それ以上に赦せなかったのは「母が作った芸術的なまでに美しいトリックを穢した事」にあります。

母の繰り出す華麗なマジックに心底惚れ込んでいた彼は、マジックのトリックを芸術品と思っていたのでしょうね。
この考えが何故殺人トリックにまで及ぶのか?
それも母親の影響だと考えられます。


そもそも、「魔術列車殺人事件」が起こった発端は何だったのか。
近宮の死か?
高遠が近宮の死を勘繰った時か?

どちらも僕はNOであると思います。
事件の起点は、「近宮がトリックノートを高遠に送った時」であると考えます。

実は、何故近宮が息子である高遠にノートを送っていたのかは作中で言及されていません。
「弟子たちに殺されるかもしれない事」を察知して、本を2冊用意し、内高遠に送らなかった方に「炎の鉄槌」が下るような欠陥トリックを仕込んでいた事は語られているのですが、何故高遠に送ったのかは描かれていないのです。

何故、近宮は高遠にノートを送ったのか?
普通に読めば、これは美談です。
死を予感した彼女が、せめて息子の為に何か残せないかと自身が編み出したトリックを授けた。
そう言う風に解釈するのがベター。

でも、僕は違うんじゃないかなと考えています。
近宮が、自身の復讐を息子にさせる為にノートを送ったのではないでしょうか。

あのノートを見れば、誰だって感付く筈です。
何故近宮が死んだのか。
自分(高遠)と近宮しか知らない筈のトリックを何故演じられるのか。

「弟子たちがトリック欲しさに近宮を殺した」という結論に容易に達する事が出来る。
血の繋がった息子であれば、自分の仇を討ってくれるんではないか?
そういう非常に恐ろしい計算の下、近宮はノートを高遠に送ったとも考えられるのです。

だって、死ぬ確率が高い欠陥トリックをわざと仕込む人ですよ。
それくらいしそうではないですか。
しかもです。
あのトリックで死ぬのは、どんなに多くても1人だけ。
作中ではたまたまターゲットの1人である左近寺がトリックを実演し亡くなりましたけれど、無関係の他の団員の可能性もあって。

決して近宮殺しに加担した全員を殺せるようなトリックでは無いんですよね。
だって一度事故が起こって欠陥トリックだと分かれば、二度と使われないんですから。
実際左近寺の死をもって、あのトリックは封印された事でしょう。

偽のトリックノートに仕込んだ罠だけでは、自分を殺そうとしている者全員を捌けない。
だからこそ、復讐者を作った。


高遠は、自身が計画を授けた犯人達をマリオネットに例えています。
禍々しいまでに見事な例えですよね。
生きているように見えて、所詮は操り人形。
自分(高遠)という操る者がいなければ、動けない木偶の坊。

他人を心底侮蔑し、他者を見下している高遠らしい表現。

でもね、高遠自身近宮玲子のマリオネットだったのではないかな。
知らず知らずの間に、母に操られていた哀れなマリオネット。
それが高遠の真実
なのかもしれません。

まとめ

こう言う風に物語を捉え直すと、高遠が「犯罪コーディネーター」になった理由も自ずと見えて来るんじゃないかな。
キング・ハデス同様、いや、ハデス以上に母の影響力を悪い意味で受けてしまった。
母である近宮もまた、犯罪教唆のような事をしていたから、高遠は殺人教唆をし続けるのかもしれません。
母が遺した殺人トリック(左近寺が死んでしまった時の欠陥トリック)に惚れ、そこから殺人にも芸術性を見出してしまった。

高遠という男は、極悪人です。
非常に許しがたい男ですし、だからこそハジメの正義感も光るのです。
高遠が悪に徹すれば徹するほど、主人公を光らせ、そういう意味で非常に重要なキャラ。

ですが、この作品はやはり「人を信じる」事を信条にしていると思うのですね。
「根っからの悪人はいない」という事を謳っている。

「犯罪コーディネーター」という一面が、彼自身の本意などではなく、彼自身すら気付いていなかった母から影響された事であるという事が最後に暴かれれば…。
多少は「悪人」から「敵役」に戻れるんじゃないかなと。

ハジメがする事は、高遠という近宮玲子に操られた哀れなマリオネットの糸を切ってあげるコトなのかもしれません。