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「BAMBOO BLADE」 主人公・タマの試合で締められなかった物語の意図を見つめ直す

この記事は

「BAMBOO BLADE」の考察記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

「BAMBOO BLADE」はバトル漫画(スポーツ漫画)では無くて、少女達(+コジロー)の成長物語である。
その事を忘れてしまっていたから、どうにも納得いかなかった終盤の展開。
僕個人の認識を改める為にも明文化してみます。

全14巻のうち、第13巻での出来事。
物語のクライマックスと呼べる大事な局面に於いて、1つの長い試合が描かれました。
14巻全てを見ても、唯一といって良い程しっかりと描かれたこの試合。
これについてはファンブック「BAMBOO BLADE 祝」にて原作者である土塚先生が言及されています。

それまでは、わざと試合を長く描かなかったのですが、どうしてもしっかりと試合を、それも死闘みたいなものを描きたかったんです。
それで、最終決戦だけは出し惜しみなくやりました。

意図的に長く。
しかも「最終決戦」という位置づけで描かれた大切な試合。

その試合の中心には、しかし、主人公である筈の珠姫は居りませんでした。
途中から登場した榊心(ウラ)と沢宮エリナという、メインキャラですらない2人の死闘で締めくくられていたのです。
タマはこの2人の戦いを観戦していただけ。

「バンブレ」の主人公はタマではなく、コジローだろという正論はちょっと横に置かせてもらいw
何故タマが最終決戦の舞台に立てていなかったのか。
当時は大いに不満ではありました。

タマ達室江女子剣道部が蚊帳の外に居るかのような状態(少なくとも当時の僕にはそう映った)で、一番の盛り上がるべき点が描かれている事に疑問しかなかったのです。

何故なのか?
疑問の答えは、冒頭に記した物だったのですね。
この疑問の僕なりの答えを記します。

タマちゃんと剣道

といっても、土塚先生が綺麗に纏めていらしているんですがw
抜粋しましょう。
最終14巻あとがきより

剣道は、強くなることもさることながら、一番の目的は自分を磨くこと、心を育てることにあります。
つまり一般的なスポーツ物のように熱血し試合で勝ち進まなくとも、いくらでも成長の話を作ることが出来ると思ったのです。

根幹にこのような考えがあったのですから、タマら室江高校の試合をクライマックスに持ってくる必要性は無かったのですね。
試合を通して成長を描くのではなく、「剣道」という武道(スポーツ)の特殊性を活かした成長譚を見せると。
そのような意図があったようです。

という訳で、タマちゃん中心にもう一度物語を紐解いてみました。

彼女の成長を見つめ直す上で大切なポイントをいくつか挙げてみます。
1つは、剣道との付き合い方。
物語当初は、実家の剣道場の手伝いでやるものという認識で、それ以上でもそれ以下でも無い感じでした。
父から「楽しいぞ」と言われても、意味を理解していないんですよね。

当然部活には興味が無く、コジローらの勧誘も跳ね除けていた訳です。

もう1つは、母・椿への想い。
ここは一貫して変わらず、幼くして亡くした母の事を大切に想っていました。

さて、いっきに飛ばして、第5巻。
土塚先生お気に入りという林先生とコジローの会話。
ちょっとだけ抜粋。

林「石田先生 あなたの生徒達はとても楽しそうだ」
コジロー「いや〜〜〜すいません 俺が適当なもんでいつも自由にさせてて―」
コジロー「でも俺が学生の頃は確かにもっともっと部活キビしかったですね キビしくって…つらかったけど… 楽しかったしおかげで多少強くもなれました」

この一連の会話(抜粋した部分以外で)重要なのは、「子供に剣道を辞めさせてしまうのが良いのかどうか」です。

学校の部活での目標の1つに、大会等で成果を上げることがあり、その為に厳しくする必要もある。
すると、練習について来れない生徒が退部していってしまう。
コジローは林の手前、「根性の無いのはどんどん辞めちゃって構わない」と口にはしてますが、林自身は「それでいいんでしょうか」と問題提起してる訳です。

この問題に対する1つの答えが、この作品の示した答えであり、タマキの成長の結果にもなっていってるんですよね。

タマに「剣道に真剣に向き合う人間」を見せることが大事だった

問題の第13巻に話を移します。
土塚先生も言ってますが、この戦いの勝者がどっちになるのかって、読者には分からない作りになってました。
それまでは、まあ、タマが勝つだろうという憶測を立てて読めるようになっていたんです。
これは「バンブレ」に限らず、フィクションの基本的な事ですよね。
基本線は主人公サイドが勝つように作られているから、読者としても基本はそのような目線で読んでしまう。

けれど、繰り返すようですが、この最終決戦に於ける対戦者は、どちらもメインキャラでは無いんです。
ウラは7巻で登場してますが、エリナに至っては本当に終盤10巻で登場したキャラですかね。
厳密に言えば、エリナも7巻で出て来てるんですが、ちゃんと出て来たのは10巻以降。
描写量から言ったら、ウラの方が勝つのかなとは考えちゃうかもしれません。
とはいえ、やはりメインキャラとは言い難いので、ウラが勝つとは思いきれない。
どっちが勝つのか?

結果から示しますと、勝ったのはエリナでした。
で、その「勝った原因」が大事。

どれだけ剣道を楽しんだか。

ただこれだけ。
ウラも楽しんでいたけれど、あくまでも「エレナとやる剣道」を楽しんでいました。
エレナはウラとの試合も楽しんだけれど、剣道そのものを楽しんだ。
彼女が亡き父から「楽しめ」と生前言われたことを只管貫いた。

この「剣道に対する取り組み方・姿勢」を「タマに見せること」って重要だったんだなと今にしてようやく理解出来たのです。
どこまでも真剣に、本気で、剣道に向き合うこと。
今まで「家庭の剣道場の付き合い」であったり「悪者退治」の為であったりという付き合い方しかしてこなかったタマには衝撃的な光景で、これは試合の当事者として接するよりも、間近で見る事に意味があるのでしょうね。
これまでになく、2人の試合を傍から見て、何を想い、何を感じたのか。

その答えが最終巻で描かれています。

タマは無自覚に周りへの影響を及ぼす子でした。
彼女の剣道に心揺すられ、室江の皆も、エレナさえも、影響を受けていた。
剣道を楽しく。
強く。
凛として。

「タマちゃんみたいになること」

キリノもミヤミヤもサヤもサトリームも皆同じ目標を持っていた。

タマはタマで当初興味すら無かった部活で、剣道の楽しさを知った。
皆とやる剣道の楽しさを知ったとウラとエリナの戦いを見て述懐してます。

んで、そんな「楽しい部活」を教えてくれたのがコジローだった。
楽しい剣道を誰よりも真剣に取り組むエレナの戦いに感化され、トドメは母・椿の夢でしたね。

「私が教え子に剣道の楽しさを伝えて 
  その子達がまた次の子達に剣道の楽しさを伝えて
    そういう風に皆が幸せになれたら嬉しいですね」

剣道を楽しむ事は出来た。
けれど、どこか真剣さというのは分かってなかった。
その真剣さもウラVSエレナで感じ取った。学んだ。

どう剣道に向き合うのか?
大切な母の夢を語り継ぎ、自身も経験し理解した「楽しい剣道」を後世に伝えていく。
既に「タマの楽しい剣道」を目標と言ってくれた室江高校の仲間達の言葉も後押ししていたことでしょう。

先生になりたい。
それも「楽しい剣道」に導いてくれたコジローのような先生に。
タマの成長は、物語全体から捉えると非常に綺麗に一本線が通っていたのですね。

剣道との向き合い方を一変させるという意味で、最終決戦は重要なウェイトを占めていたし、この試合を「タマに見せる」必要性があった。
試合の当事者にしても描けない事はないでしょうけれど、そこは敢えて「外から冷静に試合を見せる」ことに徹したのかなと。
その方がタマに「考える余裕」を与えられますしね。
故に、最終決戦にタマは居なかった。
タマちゃんが最終決戦に立てなかったのにはしっかりとした理由があったとも理解出来ました。

また、試合が長くなったのも当然に思えてきました。
タマの夢を左右する大事な大事な試合です。
簡単に終わらせるよりも、長くじっくりと描かれてる方が「タマが影響を受けた」ことも説得力が増すというか。
剣道に対する2人の熱意も伝わりやすいですしね。

まとめ

ただ厳しくして、去る者は追わずというスタンスを結局作品としては否定しているのかもしれません。
林先生の問題提起に対する1つの答えとして「楽しくない剣道はやらせたくない」というのがあるのかなと。
コジローが返したように「厳しく辛くても、楽しいと感じられること」。
そういう「剣道」をタマは後世に伝えていくのかなと少し思いました。

何にせよ、「一般的なスポーツ物のように熱血し試合で勝ち進まなくとも、いくらでも成長の話を作ることが出来る」という土塚先生の「バンブレ」に対するスタンスを体現したタマの成長物語はとても素晴らしいと気付かされました。
最終章である「バニ学」編が連載当初から構想にあったというのも大きいのかもですね。
ぶれずに最初から「剣道を楽しむ」という言葉が随所に散りばめられ、それが結実していたのも読んでいて気持ち良かったです。

何故当時からこの目線で読めなかったかな…。

本棚を整理して「バンブレ」のコミックスを"発掘"したことから始まった今回の記事。
うん。
コミックスで残す事って大事だなと。

今なお続いている「バンブレ」シリーズ。
「んぐるわ会報」などの高尾じんぐ先生と組んで「C」が連載中ですね。
シリーズが続いていけば何れ大人になったタマちゃんが先生として後進を育てている姿が描かれるかもしれません。
その姿を見てみたいものですね。

BAMBOO BLADE (1) (ヤングガンガンコミックス)

BAMBOO BLADE (1) (ヤングガンガンコミックス)