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「YAIBA」 最後の敵が最弱!?"バトル漫画の常識"に反する最終章の意義

この記事は

「YAIBA」の考察記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

「YAIBA」最終章について考える

青山先生の大ヒット作というと、「名探偵コナン」以外にもう1本。
「YAIBA」があります。

天下一のサムライを目指す鉄刃が、多くの魔剣を手に、鬼に月人、地底人に魔物など数多の敵との戦いを描いた剣客アクションコメディです。

序盤は某大作漫画のように、7つの伝説の玉を探す冒険活劇で、敵もカエル男(ゲロ田ゲロ左衛門)とかナマズ男とか。
どこかほのぼのとしたコメディ色の強いバトルが主体でした。
が、「かぐや編」、「ピラミッド編」、「地底世界編」と次第にシリアスかつ強大な敵が登場。
スケールはデカく、バトルも派手になり、刃自身も彼の持つ剣もパワーをドンドン上げて完全なるバトル漫画へと移行していきました。
「ヤマタノオロチ編」になると、日本列島そのものがヤマタノオロチでしたという驚愕の展開。
ここまで来ると、刃はもう天下一どころか宇宙一のサムライをも楽々と超えるくらいには強くなっていたんじゃないかと思う程。

そんな誰が見ても強くなり過ぎていた刃でしたが、物語の最終章は意外にも「普通の人間」が相手のシリーズでした。
最終章「織田信長御前試合編」。
正直言って、当時は全く理解できませんでした。

何故刃が普通の人間・普通のサムライ相手に大苦戦しているのか?
6代目・沖田総司とか出て来るんですが、本当に手も足も出ない程やられちゃうんですよね。

刃はこれまで、かぐや姫とかヤマタノオロチとか。
人間がひっくり返っても倒せない強敵を次々と破ってきたのに、最後の最後で普通の人間に追い込まれているのが納得出来なかったのです。

何故、このような最終章が描かれたのか?
今になって考えてみました。

バトル漫画の区分から考える

バトル漫画と一口に言っても描かれている主な戦闘スタイルによって区分できると思います。
例えば、己の体を武器とした白戦を主体とする作品。「DRAGON BALL」であったり格闘漫画全般であったり。
こういうのは、敵が強くなればなるほど、主人公自体も強くなっていくタイプの作品であります。

しかし、「YAIBA」って、こういうタイプのバトル漫画ではありません。
刃や襲い来る敵は主に刀剣を使って戦う為、白兵戦を主体としたバトル漫画なんです。

確かに、体力も肉体機能そのものも常人とは比べるべくも無く、超人レベルにまで高まっていっている。
戦闘を繰り返す度に、刃自身も強くなっている事は確かです。
けれど、あくまでも剣が主体なんですよね。
剣そのものに強いとか弱いとか…そういう概念を取り入れれば、明らかに剣の強さは物語が終盤に近づくほど上がっていった訳です。

分かりやすく刃の歴代の魔剣を見てみます。

1本目:雷神剣
雷神の力が宿っており、常人では剣に宿った雷神に意識を乗っ取られてしまうという剣。
通常時は雷神の玉が嵌められており、刃は状況に応じて玉を変えて戦っていました。

2本目:龍神剣
雷神剣が龍神の玉の力により変化したもの。
龍神の玉1つが当の玉以外の6つの玉の力(しかも威力は数倍上)を発揮でき、飛行能力やバリア等も行える。
分かりやすく「雷神剣をパワーアップさせた剣」となっていました。

3本目:覇王剣
刃のライバルである鬼丸が当初愛用していた(というか、鬼丸が風神に操られていたとした方が正しいかな)風神剣。
雷神剣とこの風神剣は元々一つであり、それがこの覇王剣という設定。
恐らく作中で強クラスであろうヤマタノオロチを封印する為に人間に与えられた剣。
この説明だけで龍神剣以上だと分かるかと思います。

この他に最終回では魔剣クサナギが出て来るのですが、宇宙空間でも飛べる能力(正確には「光速で飛行できる能力」)があるという以外には能力が判明していないので割愛。
と、こんな感じで非常に分かりやすく剣自体の能力が上がって行っている。

言うなれば「ヤマタノオロチ編」までって、どれだけ強い剣を持ち、その剣の能力を引き出せるかが勝負を決する鍵となっている。
というと少し言い過ぎかもですが、でも、それ位勝敗を決する重要な要素なんです。

では、逆に言うと、物語終盤の刃が"最弱の剣"で戦えば、初期の鬼丸にも勝てないのではないか?という疑問が生じる。
初期の鬼丸でも雷神剣に魅入られているので、十分強いですしね。
"最弱の剣"=木刀とすれば、勝負は分からない気がします。

そもそもサムライって、剣の能力は二の次であって、あくまでもサムライ自身の剣の腕が重要であって。
"天下一のサムライ"を描くには、サムライ自身の強さを描く事は殊更重要なんじゃないかなと。
これまでの刃の強さは、完全に剣に依存していた訳で、刃自身の強さはどうなんだろう?という"疑問"に対する"答え"。
それが最終章で描かれていた事なんではないかと今になって思うのです。

最終章を振り返る

最終章で刃と相対した侍たち。
印象的なのは、6代目・沖田総司と柳生十兵衛。

十兵衛は初期からの仲間であり、初期の敵でもあって。
それだけに刃自身の力を測るには格好の相手。

白戦が主体のバトル漫画では、通常初期の敵(ライバル)は二度と主人公を脅かす事はありません。
絶対無い訳では無いですけれど、殆どの場合、主人公の方がいつまでもずっと強く描かれます。

でも今作は白兵戦。剣戟を主体とした作品だけに、剣の性能に頼らない純粋な剣術の差となると話は別。
すると、刃は十兵衛に敵いませんでした。
正確に言えば、柳生新陰流の数々の技とは対等以上に渡り合えたけれど、秘伝の奥義には敵わなかった。
それでも刃が勝てたのは、闘刃という剣を極めた者しか出せない"幻の剣"を出せたから。
十兵衛がこれに惑わされたから勝てたのでした。

続いての沖田も結論から言えば同じ。闘刃に沖田が惑わされたから。
こちらは文字通り手も足も出ない程打ちのめされ、勝ち方も沖田のギブアップでした。
試合に勝って、勝負に負けたという感じでしょうか。

刃はそれまでの怪物達との戦いで、確かに超人的な力を得て、剣豪としても十分な強さを得ていました。
けれど、剣に頼っていた部分だけは否定できず。
剣に頼らない剣術では、まだまだ格上が居るという一つの"答え"がこの2戦で描かれていたのかなと。

それでも、刃は天下一のサムライでしたというオチが決勝戦で描かれていたと考えます。
決勝の相手は鬼丸。
鬼ではない人間の鬼丸です。

刃の父である剣十郎の全てを授けられた鬼丸は、鬼であった頃よりも強くなっていたようです。
(とはいえ、魔王剣を持つ鬼だった頃の鬼丸の方が強そうですが)
十兵衛や沖田をも惑わし・刃を勝利に導いた闘刃ですら鬼丸には通じず。
まさに作中全ての敵をも上回る最強のライバルという感じでした。
極限まで追い詰められた刃は、この鬼丸に勝つ訳です。

魔剣が無くても、最強のライバルに勝てた刃。
刃が本当の意味での"天下一のサムライ"になれた瞬間であったのかもです。

まとめ

十兵衛や沖田、最終章の鬼丸が、例えばかぐややジュエル等、凶悪な"ラスボス"達を打ち負かせるかというと、答えはNOでしょう。
魔剣を操る事が最低条件となるでしょうし、それが可能な刃にしか成し得ない事。
でも、そんな刃から魔剣を取ると、十兵衛や沖田、鬼丸らは、刃と渡り合えるんですよね。

刃は"通常の剣を使って戦う場合"は、ライバル達をぶっちぎっている訳では無い。
けれど、そんなライバル達に勝った事で、真の意味で"天下一のサムライ"になった。

最終章「織田信長御前試合編」のライバル達は、間違いなくそれまでの敵よりも"弱い"。
これは事実であると思います。
ドンドン敵が強くなるバトル漫画に反する現象だから、違和感こそ覚えるのは自然の事なのかもですが、改めて考えてみると別におかしく無い事だったのかなと。

魔剣使い・鉄刃の強さを描いた「ヤマタノオロチ編」までとサムライ・鉄刃の強さを描いた「織田信長御前試合編」。
強さの質とでも言うのかな。
全く別の強さを描いたシリーズであった気がします。

結論としては、最終章の意義は大きかったかなと。
剣に頼らない刃の真の強さを描いてくれていたから。

ユニット(剣)に頼らない刃の戦いを描いた最終章という事で。

おまけ。
改めて「YAIBA」読みましたが、ちょっとした発見が。
台詞量が多くなったのは「コナン」の中盤以降からだと思ってたのですが、十分「YAIBA」の時から多かった(笑
あ。画像は貼りません。
特別セリフの多いページだけを抜粋したら、恣意的に映っちゃうだけなのでw
武蔵の解説が多い為、バトル漫画にしてはセリフが多いです。特に最終章は。