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アニメな日々、漫画な月日

アニメ、漫画の感想・考察

「外天楼」は伏線回収が上手い漫画では無いと思う

この記事は

「外天楼」に関する感想と考察記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

大絶賛されていたので買ってみました

という事で、ネット上で絶賛・称賛の嵐。
去年末くらいから興味あった本作を買ってみました。
ミステリー好きとしては、こうまで煽られると読んでみたくなるというもので。

てなわけで今回はこの作品のレビューです。
ネタバレしまくりにつき、未読の方はここより下は読まないで下さいませ。

外天楼 (KCデラックス)

外天楼 (KCデラックス)

本格ミステリーという触れ込みを否定してみる

世間の反応と違い過ぎて、ちょっと困るのですが…。
普通だったなぁと。
つまらなくは無かったですし、どちらかというと楽しめました。
後味こそ宜しくないものの、お話も1巻で綺麗に完結してます。
個々のエピソードの出来も非常に良くて、完成度が高いと思いました。
「それ町」しか石黒作品に触れていない僕でも「石黒先生らしい」と思える作風で、ファンにとっても心から楽しめるし、そうで無くても意外な結末に満足すると思います。
それでも、僕はそこまでは嵌れませんでした。

僕はこの作品、本格ミステリーという触れ込みを信じて読んでいたからです。

連作短編。
散りばめられた伏線
関係ないと思われた出来事が終盤で繋がっていき、「あっと驚く」大どんでん返しがあって
傑作本格ミステリー

等々。
僕がこの漫画の評価として事前に見た言葉です。
間違いでは無かったです。どれも実に正しかった。過大評価でも虚偽でも無かったのです。
ただ僕が勝手に想像を膨らませてしまっただけ。
どうも僕の勝手な予想を上回ってくれなかったんですよね。

ですが本格ミステリーとして振り返ると、やはり疑問なのです。
この漫画はミステリー要素こそあれ、本格ミステリーでは無いですね。
もっと真摯な…社会派なメッセージが込められたお話ですよね、これは。
そういった漫画という事を前提であったなら、もっと楽しめた気がしないでも無いです。

伏線の見極め

伏線というのは作劇的な観点から見ると2つに分けられると思っています。
一つは、あらかじめ先の展開の為に仕込んでおいたもの。そのままズバリ伏線です。
もう一つは、過去の何でも無い事を利用して「伏線」とする場合です。
後者は週刊少年ジャンプ連載の「バクマン。」で描かれていましたよね。

で、これ。
読者がどっちか判断するのって存外難しいと思っています。
分かりやすく判定できることも勿論ありますが、そうで無い事の方が大半なんじゃないかな。
まぁ、その見極め自体することに何ら意味が無いと思うのですが…。

その意味の無い事を敢えてしてみると…。
この漫画で言う所の「伏線」って、どちらかというと後者だと思うんですよね。

登場するキャラクターが最初から最後まで共通しているというだけで、お話の真実の部分は最後まで読まないと分からない作りになっている。
「途中で気付けたら凄い。有り得ない」という賛辞の感想を見かけましたが、全くその通りなんです。
気付き様が無いんですよ。恐らくわざとそういう作りで描かれていたから。

ミステリーというのは、きちんと伏線を仕込んであります。
最後のネタに読者が気付けるように、ちゃんと仕込んでいる。
良いミステリーというのは、その張り方が巧みであったり、考えればきちんと真相に辿り着けるように配慮されている。
そういうものであると思っています。

こういう伏線が張ってあるから、予想外な真相を提示されれば驚くし、グッと楽しめる。
後で振り返って伏線に気付いて、その巧みさに感嘆できる。

「外天楼」の場合、アリオ達兄弟の出生の真相が最大のキモだと思っているのですが、それに関する伏線が終盤に至るまで全く無かったのですよね。
だから最後の「真相」も全く驚けなかったのです。
以上の理由から、僕は本格ミステリーとしてはあまり楽しめませんでした。
僕が伏線に気づいてないだけだったら赤っ恥ですがw

「それ町」の手法論と同じなのではないかという考え

結局石黒先生は、辻褄合わせが上手いのではないかと思いました。
悪い意味では無いですよ。

後でどうとでも出来るように描く事で、描いているうちに自在にストーリーを変化させていく。
それを可能としているのが、この辻褄合わせの巧みさなのではないでしょうか。

ちょっと「それ町」に話を移してみます。
時系列をシャッフルして描かれているこの漫画。
面白いですよね。
僕の好きな漫画の一つなのですが「外天楼」も「それ町」も基本は同じなのかなって。

「それ町」は時系列をシャッフルしていると先程書きましたが、全てのエピソードの時系列を事前に決めて描いている訳では無いと思うのです。
絶対無いとは言い切れないですが、無いと考える方が普通ですよね。
恐らく描きながら、お話の時期を決めて、整合性を保つようにしながら作られているのだと思います。
で、読者が時期を特定できるように遊び心溢れた小ネタを仕込んだりされている。

1話描く毎に相当大変な作業を強いられているんではないでしょうか。
違和感なく新しいお話を馴染ませるように、色々と気を遣うでしょうから。

つまりは、「それ町」も辻褄合わせが巧みだからこそ可能な漫画なのだと考えます。
最初から歴史が作られていて、それをなぞるのではなく、描きながら歩鳥の高校3年間の歴史を作っている。
作者にも終わってみるまで歩鳥が3年間に体験した全てを知る事が出来ない。

「外天楼」も同じかなと思います。
1話のエロ本話の時点では、アリオは普通の人間だったのかもしれません。
後のお話を描いていく内に、アリオの出自を思いついて、そういう風に全体のお話を組み立て直した…のかもしれません。
上の方で「途中で気付けたら凄い。有り得ない」という感想があった事を書きましたが、これは作者自身そうだったのではないでしょうかね。
石黒先生も最初はそんな事考えてすらいなかったのかも。

「外天楼」は伏線回収が巧みなのでは無くて、
何でもない事を伏線に変えて辻褄を合わせる事が上手いのだと思います!


「それ町」も「外天楼」も何度読み返しても飽きないと言われています。
読み返すたびに発見があるから。
それもそのはずで、そうなるように計算されているからなのだと思うのです。
後から後から”何でも無い点”を”伏線”に昇華させているから、読むたびに新たな発見がある。
辻褄合わせの天才が描いている極上のエンターティメント作品。
それが石黒先生の漫画なのだと思っています。

なので「外天楼」を気に入った人は、是非「それ町」も読んでほしいですね。
ジャンルこそ違いますが、流れているテイストは間違いなく同じですから。

それでも町は廻っている 9 (ヤングキングコミックス)

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